2nd season last episode


────ライオットシティの冬は長く、厳しい。

厚く閉ざされていた雪解けが始めり、その夜は春の到来を思わせる霧雨に包まれていた。

穏やかな街並みが一変し、Royal Police特殊武装部隊(通称SAF)の強行制圧隊がとあるカジノ前へ総動員されたのだ。

周囲には厳戒態勢が敷かれ、どよめきながら一般市民たちが夜の街に溢れ出る。

赤いサイレンが雨上がりの路面に反射して、光の喧噪を打って変わり、周囲は酷く静まり返っていた。

重々しい両開きの真っ赤な扉の前、既に取り押さえられたボディーガード達が脇に蹲る。

並みいる部隊の先頭へ立つ巨躯───グレイドが固く握りしめた拳を高く掲げる。

その手が大きく開かれた途端、グレイドの脇から破城槌が扉へ向かって打ち抜かれた。

続いて投げ込まれたのは催涙弾、煙幕が場内へ瞬く間に広がり、雪崩れ込むSAFの精鋭達。


「ここいら一帯は包囲されている。逃げ場はないぞ!観念するんだな!」


このカジノで化蛇(カダ)の漢方ドラッグCHIMERAが裏取引されているという情報を受けたSAFが大捕り物を敢行したのだ。

混乱の中でいとも容易く捕まっていく者たちの中には勿論一般人も含まれるが、容赦などされない。

第一波はカジノラウンジを手際よく制圧し、第二波はグレイドと共に奥の方へと駆け抜ける。

彼らの目的はCHIMERAだけではなかった。

確かな情報筋から得た千載一遇、寧ろ、「彼」が標的であったと言っても過言ではない。

一切脇目も振らず一直線にとある部屋へと辿り着き、その扉を蹴破った。


───室内は、さながら地獄絵図のようだった。

扉が解放された瞬間に襲いかかってきた異臭とビジュアルに、場慣れした隊員たちでさえ数名が嘔吐いた。

鼻孔へ突き刺さるほど強烈なCHIMERAの香り、それに絡み合う濃密な血臭と糞尿。

乱舞するライトに当てられ岩石のような巨躯が浮かび上がる。と同時に、地面へぶちまけられた生物のなれの果てたちもぬらりと光った。

千々に散乱する臓物の只中に立ち尽くす赤い双眸──既に絶命しているのが解るよう、その両手に捕まれた頭部から下はだらりとボロ雑巾のように垂れている。

そして今もなお逃走を図るでもなく、頭蓋へ強靭な歯牙でかぶりつき、骨と肉を噛み砕く咀嚼音を繰り返している。

赤黒い毛並み…焦点の合わぬ赤い双眸…全身に刻まれた傷跡──WANTED指名手配犯グーラ。

見た者の根幹を震え上がらせる、本能的な恐怖を呼び覚ますものがそこに「いた」

場にいた者たち全てが凍り付き、咀嚼音ばかりが響く室内。

時間が止まったかに見えたその時。


「オオオオオォォッ!!」


緊張を切り裂くかのよう怒号を上げたのはグレイドだった。

猛然とグーラ目掛けて突進し、そのまま己よりも大きな化け物に組み合った。


「ボサッとするな!麻酔弾をありったけぶち込め!!!!」


グレイドに怒鳴り付けられた隊員たちは弾かれたよう我に返った。



一方…この捕り物をカジノ屋上から見定めている男がいた。

黒衣の狼、アスラである。彼はヘルシャフトTOPヴィリーの直属にして、何の因果かグーラの御目付役に納まっていた。

グーラは元々獰猛で予測の出来ない男だが、このところますます歯止めが効かず、CHIMERAによる「躾」を試みていたのだ。

だがこれは内々に進められていたもので、情報が漏洩する確率は極めて低い、はずだ。

アスラの隻眼が僅かに細まった。


「ヘルシャフトに蝙蝠。──内通者の可能性か。ヴィリー、一枚岩など幻想だと分かっただろう」


この包囲網の中、制御不能の大型獣を連れて逃げ切ることはアスラとて容易ではない。

CHIMERAをたっぷり吸引した今では敵味方の区別も難しかろう。

かと言ってこのまま策も講じず立ち去るのは立場上都合が悪い。

……だが、気になる点もある。グーラを捕らえた後も、屋内外を活発に隊員たちが動き廻っているのだ。

CHIMERAの更なる隠し場所を探しているのか───あるいは、───己を探しているのだとしたら?


「そこに居るのは誰だッ!」

「チッ」


思案に没入し過ぎ、屋上へ隊員の一人が現れるまで気付けなかったことに舌打ちを打つ。

これ以上ここに居座る訳にもいかない。ともあれ報告と、蝙蝠探しかとアスラは判断する。

肩越しに投げた一瞥だけを残し、常人ではありえない跳躍で隣のビル、そのまた先へと黒狼は姿を消した。





翌日、グーラ逮捕は号外が飛び交うほどのニュースとなる。

「これで怯えて夜の街を歩かなくて済む」と町中が胸を撫で下ろしたのに対し、

ただ一人この男だけは、全く真逆の反応を見せていた。



───ハインドが一報を受け取ったのは夜の白みかけた明け方のことだった。

そこは彼の住まう邸宅の敷地内に建てられたHUNTERの詰め所内の一室。

普段であれば明朗に受け答えをする筈のハインドが、この時ばかりは暫くは身動ぎせず、声も発さず、中空を睨み付けたままになった。


「その情報は…確かなんだな」


そうしてようやく漏れ出た一言は何時も彼の物言いとは打って変わり、酷く静かに沈み込む。

気圧されながらも情報屋がそうだと答えると、ハインドはそれ以上一言も発さず受話器を置き、一呼吸の間も置かずコートを掴んで部屋を飛び出した。

詰め所でトランプをしていたHUNTERメンバーが応接室を通りかかるハインドに声をかけたが、彼は視線すら投げなかった。

一歩一歩踏み出す靴音が怒りを物語るよう鋭利に響き、風を肩で切りながら正面を見詰めるアイスブルーは瞬きを忘れたまま。




アレが───檻に入ったら計画が水の泡だ


この世の何よりも痛めつけ苦しみ抜き、死ぬ方がマシだと何度も思い知らせながら時間をかけて縊り殺す


この俺が、この俺の手以外に有り得ない


────アレは俺の獲物だ



雨が上がり、底冷えする街中を歩く最中、己の鼻先へ無意識に指をやる。

その昔、遠い遠い昔、まだ彼が幼かった頃に付けられた深い古傷を摩る。

絶叫する間もなく絶命した父の顔をまだ覚えている。

子供だけは助けてくれと懇願する母の声を覚えている。

そして、眼の前で両親が肉塊に変わっていく様を、それを貪り喰う化け物の影を、今も夢に見る───

あの時RUNNERが通りがからなければ、己も死んでいただろう。

幼い記憶は年を追うごとに霞がかって歪んでいき、化け物の姿も酷くいびつで禍々しいものへ変化していった。

だが、RUNNERライオット支部で見た賞金首の印刷を見たときに、全身へ電流が奔った。

身体の奥が叫ぶのを聞いたのだ。


コイツだ。


間違いない、コイツだ。


───ようやく見付けた、と。


彼がRUNNERを志願したのはその直後のことだった。

捕まえてRPへ突き出すことなど考えてはいなかった。

情報を得るためにRUNNERになり、周到に捕縛するためのHUNTERを築いた。

それなのに今、長らくかけて積み上げてきた計画が足元から崩れ去ろうとしている。

刑務所へ半永久的に閉じ込められてしまっては、手の出しようが無いからだ。


それだけは許さない。


怒りに満ちた足音が、徐々に硬い意思を秘めたものへと変化していくのを、寝静まる街だけが聞いていた。



SAFにより掃討作戦は大成功を納め、グーラを筆頭に当時カジノに居た他WANTED数名も捕縛される。

裁きを下される日まではライオットシティ内に建設されたアバドン刑務所へ、全員一時収容となった───


 To be continued 3rd season...

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