First season last episode


RUNNERライオット支部からの一斉伝令で、工業地帯にレッドアラーム発生。

直接所属ではないがヒューゴもまたその場に急遽駆け付けた。

任務に当たる予定であったアイザックが別件に引っ張られたための要請である。


「待っていたぞ!ヒューゴ!」

溶鉱炉の隙間を駆ける中、頭上から降り注ぐ声。

「またお前か」


見上げなくとももう誰なのかは分かっている。

聞き覚えのある声だ。素通りしたとて追いかけてくるだろうことも予想がついた。

観念して見上げるとそこには予想通り、黒コートに身を包んだ黒狼が立っていた。

月明りを背にして、シルエットは一層漆黒に近づき、爛々と光る蒼白い二つの眼玉だけが閃く。

アスラの肩は、笑っているように揺れた。


「つれないことを言うな。オレとアンタの仲じゃないか」

「付いて回ってるのはお前の方だろう、アスラ」


アスラは数年前突然シティへ姿を現し、数多の犯罪に手を染めながら、事あるごとにヒューゴの前に現れた。

追い駆けていた事件の関係者や首謀者であることも多かったが、

アスラ自身が全く関わっていない事件でも「観戦」と称して現れたのだ。

理由を追及する気も無かったヒューゴは、単なる暇つぶしの酔狂だろうとしか考えていなかった。


この夜までは。


「......悲しいねえ。まだ分からないかねえ。アンタの目は実に節穴過ぎる」


アスラは至極残念そうに言うと抜刀した。

柄から鍔、刀身に至るまで全てが漆黒で、月光に反射した部分だけ白々と光る。

剣帯に納まっている姿は度々見て来たが、刀身そのものを目の当りにするのは初めてだった。

ヒューゴは溜息をついた。


「先を急ぐんだ。構ってる暇はない」

「そうは行かん。この場で戦え」

「......断ると言ったら?」


アスラのシルエットラインが水面めいて「揺らいだ」......ように見えた。

蒼白い黒炎が黒刀から噴き上がり、黒衣もろとも包み込んで覆い尽くす。

刀のプレッシャーを受け、覚えのない既視感がヒューゴを襲った。

この感触、初めて触れる気がしないのだ。ヒューゴの表情がおもわず曇る。


「その刀は一体」

「断れんさ。アンタはオレから逃れられん」


アスラの声と同時に、左目を縦断するよう蒼炎が一閃駆け抜けた。

真直ぐではなく、放たれた稲光のよう歪に歪む。

ヒューゴは無意識に自らの左目に手を伸ばしかけた。

それに気づいてか、アスラは蒼炎に包まれたまま、今度は明らかに笑った。


「見覚えがあるだろう?毎日鏡で見てるだろう? よく見ろよ。この刀、この傷───どうだ?」


アスラの声が、耳奥で響くような錯覚を覚えた瞬間、目前が真っ白に染まった。

急激な眩暈にも似た衝撃、白く濁った視界の代わりに脳裏へ断片的な映像がフラッシュバックする。


最初に浮かんだ黄金色の草原は、収穫前のそれではない。


闇の中、一軒家から真っ赤に燃え上がる炎がそうさせているものだった。

太い梁が業火に巻かれて焼け落ちる。弱弱しい小鹿のように一階から崩れ落ちて

いく。舞い上がる火の粉が闇の星々よりも閃いて、濃い灰煙と共に渦を巻いた。


何処かで悲鳴が聞こえる。

怒号にも似た、悲痛な叫び声だ。

聞き覚えがある。


崩れ去る家屋の傍で地面に蹲り、大きな背中を丸め、何かを描き抱く。

悲鳴と嗚咽に遠吠えが混ざった。


───あれは誰だったか。

──────誰? 違う、それは

男の足元には見覚えのある得物が横たわっていた。

そうだ、あれは俺だ。

何時の記憶だ、覚えがない。


違う、──確かに俺はあの場に居た。

鼻先をつく焦げた匂いが蘇った。

───俺は何をしている?

─────いや、──いや、何だこれは、俺は、


「逃がさんぞ」

唐突に降り注いだ声に、ヒューゴは弾かれたように意識を取り戻した。


「アンタの人生は、オレのものであるべきだ」


大きく口が裂けさせ、歯牙を剥き出して笑うアスラの口腔内は蒼炎を飲んだかのように蒼白かった。

意識が混濁したまま現実に引き戻されない。

黒狼の笑い声と「自分のものだろう」叫び声が脳裏を占める。


───俺は、待ってくれ、俺は、違うんだ、そうじゃない──俺は、



─────────『何をやった』?



「ガァアアアアアアアアア......ッ!!!!」


脳裏の中のものと思っていた怒号は、今度は現実の、ヒューゴ自身のものだった。

振り絞るよう天を衝く咆哮。

ヒューゴの携えていた刀が柄に納まったまま強烈な鬼火を噴き出し、

それに呼応するよう、雲一つなかった夜空に雷鳴が轟いた────



RUNNERライオット支部から本部への通達────

本日フタフタマルマル、シティ工業地帯にて落雷による大火災が発生。

RP(royal police)の指示下にて6時間後に鎮火、被害は甚大。

火災以外の施設損傷も多数見受けられる模様。

現場に居合わせたヒューゴの所在が不明──────捜索を続行する。


 To be continued 2nd season...

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